Whatホウ酸塩とは何か

ホウ素は、私たちの生活にとっても重要です。人の健康や植物の生育にも欠かせません。

ホウ素は原子番号5の元素で、天然には酸素と結合したホウ酸塩として存在します。原子量10.8の軽い元素ですので、火の玉だった地球が冷却する過程で、表層部に多く集積したと推定されます。海洋が生まれ、蒸発した海水が雨となって大陸を洗うようになると、地表のホウ酸塩は水に溶解して海へ運ばれ、地表のホウ酸塩含有率は低下しました。

現在、ホウ酸塩は、ホウ素換算で地殻の0.001%を構成し、土壌には 3-4 ppm、海水には 4.5 ppm、淡水には 0.01 ppm程度含まれています。

ホウ酸塩とは何か

ホウ素は、私たちの健康にとっても重要です。
成人は水や食事から一日1-3mgのホウ素を摂取しています。
ホウ素は代謝や骨の健康、脳の機能への役割が確立されています。
最近では、写真のように、ホウ素不足を補うためのサプリメント も販売されています。

ホウ素は植物にとって必須元素です。
特に野菜や果実の生育には欠かせません。世界で肥料として使用されるホウ酸塩は年間6万トンで、毎年4%のペースで増加しています。

ホウ酸塩は地下の鉱脈から採掘されます。世界最大のホウ酸塩鉱脈は、アメリカとトルコの砂漠地帯で発見されました。
1500万年以上昔、地殻変動でできた高濃度のホウ酸塩を含む湖が干上がってホウ酸塩が堆積し、さらなる地殻変動で地中へ埋もれたと考えられています。

露天掘りされた原石は、精製され、製品として出荷されます。世界で、年間、150万トンのホウ酸塩が使用されていますが、主要な用途とパーセントは次のようになります。

農業 7%、長繊維グラスファイバー 15%、過ホウ酸塩/洗剤 10%、セルロースファイバー断熱材 2%、断熱用グラスファイバー18%、ホウ珪酸ガラス 9%、セラミック/フリット 14%、物流 8%、その他 17%

木材保存剤として使用されるホウ酸塩は、世界で年間10,000トン程度と推定されます。

この分野で使用されるホウ酸塩は、ホウ酸(H3BO3)、ホウ砂(五水塩:Na2B4O7・5H2O、十水塩:Na2B4O7・10H2O)、八ホウ酸二ナトリウム四水塩(Na2B8O13・4H2O 英名:Disodium Octaborate Tetrahydrate 略称DOT)、ホウ酸亜鉛(2ZnO・3B2O3・3.5H2O)の4種です。

DOTは水に対する溶解度、溶解速度ともに高いのが特長です。これに対し、ホウ酸亜鉛は水への溶解度が室温で0.3%以下で、耐水性の要求される複合材料などに使用されます。

木材劣化生物とホウ酸塩
ホウ酸塩は、ヒトやペットには安全で、木材劣化生物には厳しい、理想的な木材保存剤といえます。

ホウ酸塩は生体細胞内ではホウ酸 B(OH)3の形をとります。ホウ酸は、水酸基を2個以上もつある種の有機化合物と強固なキレート結合を形成する性質があります。この代表は補酵素です。

生物は、細胞内で栄養分を燃やしてエネルギーに変えています。これを代謝といいます。

代謝をスムースに進めるのは、酵素と補酵素の役割です。酵素は複雑なタンパク質ですが、補酵素は糖やアミノ酸が結合した単純な構造です。糖は多数の水酸基を含むため、ホウ酸とキレート結合を形成します。細胞中のホウ酸濃度が高まると、ついには、補酵素全体がホウ酸とキレート結合し、代謝反応がストップします。こうなると、生物は餓死することになります。

ホウ酸塩の毒性閾値(ホウ酸換算)
木材劣化生物 毒性閾値(kg/m3 BAE)
イエシロアリ 3.0
ヤマトシロアリ < 3.0
アメリカカンザイシロアリ 1.0
腐朽菌 1.0~1.5
食材甲虫 1.2

例外は、哺乳動物です。哺乳動物では、血液に溶けた過剰のホウ酸塩は、腎臓の働きで体外へ排出されます。
このため、哺乳動物に対するホウ酸塩の毒性は微弱です。ホウ酸塩は、ヒトやペットには安全で、木材劣化生物には厳しい、理想的な木材保存剤といえます。

ホウ酸塩を木材保存剤として利用するには、木材にホウ酸塩の水溶液を含浸させます。シロアリや食材甲虫がこの木材を摂食すると、細胞中のホウ酸濃度が高まり死ぬことになります。また、食材甲虫がホウ酸塩処理した木材中に産み付けた卵は、孵化率が低下します。腐朽菌が木材に侵入すると、ホウ酸塩は細胞膜を通して拡散し、代謝阻害を引き起こします。

ホウ酸塩が劣化生物を制御するには、木材中のホウ酸塩濃度が一定の値を超える必要があります。この値を毒性閾値といいます。

表から、シロアリに対するホウ酸塩の毒性閾値は、他の木材劣化生物に比較してはるかに高いことが分かります。これから、シロアリ対策として十分な濃度のホウ酸塩を含浸させれば、防虫、防腐効果も十分といえます。

木材保存剤としてのホウ酸塩

木材を劣化生物から保護するため注入する薬剤を木材保存剤といいます。

木材保存剤には、大別して固着型と拡散型があります。固着型保存剤は、木材組織中に注入すると固化し、組織と結合します。
このため、一旦注入すると長期間水にさらしても溶け出す(溶脱する)ことはありません。

これに対して、拡散型保存剤は、木材組織と強固に結合することはなく、木材の含水率が高くなると高濃度側から低濃度側へ拡散します。

日本で今日認定されている保存剤は、原則として固着型ですが、2004年のJIS K 1571の改正で拡散型保存剤の認定への道が開けました。

木材保存剤:固着型と拡散型
項目 固着型 拡散型
材との結合 木材中で固化し、
組織と結合する
材と結合せず、
水分を媒体に移動する
溶脱 水に長時間浸漬しても溶脱しない 長期間水に浸漬すると溶脱する
用途 限定されない。
住宅部材、屋外用途
水が掛からず、
地面と接触しない用途
塗装を条件に非接地屋外用途
浸透性 木材表層部10mmしか浸透しない 拡散により材の中心部まで浸透する
注入性 樹種により異なる 含水率に依存する
代表例 ACQ、銅アゾール、NZN、CCAなど ホウ酸塩、無機フッ化物
ホウ酸塩処理・・・世界の事例

ホウ酸塩を用いた木材保存技術は、19世紀半ばにニュージーランドで実用化されました。天然林が枯渇したため、安価で食材甲虫の被害を受けやすいラジアータパインを建材として使用することになり、安価で安全な八ホウ酸二ナトリウム処理を義務づけました。

規格は、最初、材芯1/9部(図)の吸収量を0.2%BAEと定めましたが、後に0.1%BAEに低減されました。

ホウ酸塩処理材の使用に当たっては、溶脱を防ぐため非接地・非暴露(屋根や塗膜で雨水や液体の水から保護する)の用途に限定しましたが、これは今日でも正しい判断です。

1992年の報告で、正しくホウ酸塩処理された木材が仕様通りに使用され、建物が正しく維持管理された場合には溶脱による事故は皆無であることが明らかになり、世界中でホウ酸塩の利用が加速しました。

ハワイでは、イエシロアリの被害に対処するため、1985年の条例で、木造住宅の土台、梁、根太、床下地板、間柱、柱などすべての構造部材の防蟻処理が義務づけました。当初CCA処理材が主流でしたが、その後ホウ酸塩処理木材のシェアーが高まり、住宅部材のCCA処理が禁止された後はほとんどホウ酸塩(DOT)処理材に替わっています。

木造住宅の全ての構造材をDOT処理するTSS方式(Treated Structural System) は、今日、New OrleansやFloridaなどイエシロアリ被害の激しい地域に普及しています。

ハワイでDOT処理材のシェアーがCCAを圧倒した理由は、安全・環境指向の風潮に加えて、完成した住宅の事故率(蟻害)の低さにあります。固着型のCCA処理剤では、材中心部が保護できないためです。

ホウ酸塩処理の効果
ホウ酸塩処理の効果・・・シロアリ
DOTの溶脱は見られず、イエシロアリ+ヤマトシロアリに対する10年間の暴露で、ほとんど食害されません。

ホウ酸塩処理はシロアリ対策に最適な手段です。理由は浸透性の良さです。シロアリは、材の中心部を食害する性質があるため、浸透長が10mmに限定される固着型保存剤では不十分です。

(図)は、鹿児島県で行われた日・米・加協同の野外試験の結果です。試験体は、結露などの理由で含水率50%に達しましたが、DOTの溶脱は見られず、イエシロアリ+ヤマトシロアリに対する10年間の暴露で、ほとんど食害されません。
これに対し、未処理のヒノキやヘムファーは厳しく食害されています。
同じ試験で、腐朽に対しDOT処理が極めて効果的であることが確認されました。

ホウ酸塩処理
ホウ酸塩処理

写真は沖縄県竹富島に建設された環境省のビジターセンターです。ホウ酸塩処理した大断面集成材が構造を支えています。
鹿児島県肝付市(山佐木材株式会社提供)

ホウ酸塩処理材のエクステリア用途
低レベルホウ酸処理(0.25%BAE)試験体と未処理試験体を14年間にわたり屋外暴露した結果です。
ホウ酸塩処理した試験体では、ほとんど腐朽は見られません。

ホウ酸塩処理材は非接地屋外用途に広く使用されています。この場合、耐水性塗料を塗装することが条件です。

この用途の野外試験にはL-ジョイント試験があります。保存処理した38×38mm角材を右の図のようなL字型に加工し、耐水性塗料を塗布します。塗膜が完成したら接合部を押し広げ、塗膜を一部破壊して接合部に雨水が染み込むようにします。

試験体は、屋外の架台上にならべ、定期的に腐朽の進行を目視でチェックします。
目視評価では、全く腐朽の見られない場合を10点、腐朽で破壊した場合を0点とします。表面にわずかな腐朽が見られると8点、2点は腐朽で試験体がバラバラになる寸前です。

ホウ酸塩ベースの表面処理剤
ホウ酸塩ベースの表面処理剤

DOT水溶液やDOTとエチレングリコールの縮合物は、農薬系の表面処理剤と比較し、安全性、耐久性に優れているので、新築や既築住宅の木部処理に広く使用されています。

木材の表面に塗布されたホウ酸塩は、時間とともに材中心部へ浸透していきますが、分解や蒸散はしません。溶脱などで失われない限り、効果は永久に続きます。図1はホウ素系と合成殺虫剤系の表面処理剤を比較したものです。

合成殺虫剤系表面処理剤とホウ酸塩の処理木材中での経年変化比較

ホウ酸塩

合成殺虫剤系処理材の有効成分は蒸散と分解により失われます。有効成分が蒸散すると毒性物質が大気を汚染し中毒やシックハウス症候群の一因となります。

ホウ酸塩
ホウ酸塩と百年住宅
ホウ酸塩で中心部まで処理し、溶脱の起こりにくい設計、施工技術を心がけることが現実的です。

表は世界の平均住宅耐用年数と人口千人あたりの保存処理木材生産量を示したものです。日本の数値は、両方とも際だって低いことが分かります。

では、住宅の耐用年数を高めるにはどうしたらよいでしょうか。

①腐朽蟻害の危険性の高い部材を保存処理する。現行では、土台を加圧注入処理する新築住宅は40%以下と推定されます。

②外壁の構造材は、加圧注入かホウ酸塩処理材にする。現行では5年ごとの処理を前提に合成殺虫剤の使用を認定していますが、築後5年ごとに外壁を開いて内部を点検し、処理する家は皆無です。

③100年住宅を実現するには、浸透長20mmが必要といわれます。現在、20mmの目標を達成するための研究開発が行われていますが、今のところ、固着型保存剤で20mmの浸透長は不可能です。ホウ酸塩で中心部まで処理し、溶脱の起こりにくい設計、施工技術を心がけることが現実的です。

④エネルギーコストの上昇で、住宅の省エネルギー化は必然です。将来は、壁、天井、床などのEnvelopeの保存処理が実現するでしょう。安全、健康、環境の視点から、ホウ酸塩保存処理のウェイトが増加するものと思われます。

住宅耐用年数と保存処理木材生産量
国名 耐用
年数
処理木材生産量(’93)
m3/千人 対日本比
日本 30 3.3 1.0
米国 84 54.6 16
カナダ 56 54.8 16
英国 124 30.5 9
オランダ 65 29.2 9
スウェーデン 95 54.9 17
デンマーク 127 46.9 14
ノルウェー 87 51.6 16
フランス 83 27.3 8
(注)処理木材生産量(93)は、A.J. Nurmi,Int. Res. Group on Wood Pres., Doc. No. IRG/WP94-50033による。耐用年数(Stock/Flow)は、(財)住宅産業情報サービス:“住宅産業ハンドブック(2001)”の数値から計算した。